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1995年10月号・其の2 我が夢は戦闘機
その男、ロイに会ったのは、もう15年も前である。ニューギニアの独立まで、北部のウィワックに住んでいたらしいが、何をしていたのか、知らない。趣味が少し変わっていた。戦闘機を集めていた、という。
ニューギニアは、第二次戦中の激戦地の一つである。ジャングルの中を歩き回り、戦車、武器類、特に戦闘機を見つけると、土着の原住民を使って彼の庭まで運ばせていたようで、写真を見ると、ズラリと並べられた彼の収集物は、まったく壮観としか表現のしようがない。
しかし、ニューギニアの独立後、「新政府の野郎共、俺の戦闘機も何も、全部没収しやがった」。大きな子供が、おもちゃを取り上げられたように、私の前で悔しがるのである。ロイが50歳を越していた男であるだけに、気の毒やら、又どこかお可笑しいやらで、妙な男もいるもの、と関心した事だった。
彼は、ほとんど着の身着のままで、隠して運べるだけの収集物を持って、ケインズに戻って来たらしい。その中に日本軍の軍刀が二振りあったので、私に鑑定を依頼してきたのだ。その時以来、彼に会ったことはない。
つい先日、道場の稽古が終わった時、ケインズポリスの顔見知りの巡査部長が入って来た。盗品、その他、引き取り手のない物品の、ポリスオークションがあるという。その中に、「本物の日本刀があるぜ」。知らせに来てくれたのだ。
オークションの始まる前に、必ず物品の公開がある。品物は全部、透明のプラスティックでカバーされており、外から見るだけである。刀は刀身を見ないと質が判らない。ところが、受付の女性が私の門弟で、コッソリと見せてもらった。
刀は大戦中に粗製乱造された、昭和刀だった。私には不要の物だったので、居合稽古用の刀を捜していた門弟に連絡し、「200ドルまでで落とせるならば、買物」と知らせてやった。ボロ刀であるだけに、その位で落ちると踏んでいたが、一人、えらく熱心な男がいて、私の言った倍以上の値段で、落としたそうである。
電話が鳴った。老人の声だった。口の中でモグモグと、舌を回すようなしゃべり方は、私の記憶の線のどこかに触れるものがあった。ロイ、だった。あの戦闘機野郎である。刀を見て欲しい、と15年前と同じである。
久し振りだった。お互いに少し年をとったけれど、彼の目にはまだ、無邪気そうな光があった。私には、彼の15年が判るような思いがした。
「何だ、この野郎だったのか」私の目の前に、彼の久し振りの収穫物を、得意そうに取り出した時、心の中で、そう呟いた。刀はポリスのオークションに出ていた物だった。私は、その刀についての説明をしてやった。刀が古い物ではなかった事に、少し失望の思いを感じさせながらも、「どれ位の価値のものかのー」と最後に聞いた。
私は、ロイがその刀を二度売りするような男ではない、と思っていたし、彼がオークションで落とした値段も、門弟から知らされていたので、その値段よりも少し上の値段を言ってやった。ロイは満足気に、何度か頷いた。
「刀を見てもらった礼に、歯をやるよ」ロイは私も日本軍の遺品を集めているのを知っている。
「俺が持っているより、お前さんに持ってもらった方が、歯も喜ぶじゃろう」
歯は、ジャングルの中で白骨化した日本兵の遺体より、原住民達が集めて、ロイの所に持ち込んだものという。恐らく、全歯から金を取る為に集めたものと思われる。小ビンに一杯位あるという。私自身、日本兵の頭蓋骨も持っているので、有り難く頂く事にした。横で話を聞いていた妻が、薄気味悪そうな顔をしている。
15年前、俺は又、戦闘機を集めるぞ、と言っていたロイも、もう年をとってきた。物が物だけに、もうロイの夢は実現出来ない事を、彼も十分知っているのだろう。だからこそ、彼の子供のような夢は、日本刀等の小物の中に、形を変えて生きているのだ、と思った。
日本人は、押しなべて平均的な人間が多いが、豪州人の男の中には本当に面白い、人間臭いキャラクターがいる。空手道場という、普通の職業と少し異なった分野で生きてきた私の周りには、こんな妙な人間が沢山いて、まったく飽きない。
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