|
1995年11月号・其の3 CRABBES CREEK
道は曲がりくねっていた。人家はない。ブッシュや緑の丘陵が交互に目に入ってくる。通り慣れた道だが、その日は大型トラックが多く、少しスピードを落としていた。
Gold Coastの喧噪を通り抜け、少し静かになってきた、と感じだしたら、もうTweed Headsである。知らぬ間に、QLDからNSWに入っている。以前は、州境に関門があったが、いつの間にかなくなってしまっていた。
NSWに入ると、急に光景がノンビリとなり、大きな川に沿って走ると、最初の町Murwillumbahに着く。この町を出る頃から道は上り坂にかかり、緑の放牧地がなだらかに続く、快適なドライブである。
私達は、Brisbaneから南に300キロ程の地点にあるLismoreに向かっていた。そこに知人が面白いAntique Shopを持っており、私の家の家具等は、全部そこから購入している。値段が安いのみならず、品数が豊富で、見ているだけでも楽しい。
Antique家具というと、贅沢に聞こえるが決してそうではない。新しい家具は、外見は良く作ってあるが、その価値を継続出来ないばかりか、チャチな材料を使用してある。表面ばかり体裁よく取り繕っても、中味のない人間のようなもので、使っていて飽きてくる。
Antiqueはむしろその逆で、価値は下がらず、見えない箇所までシッカリと作ってある。その家具を、今まで大切に使ってきた持ち主の、人間の温か味が感じられる。Lismoreに行く時は、その序でに数日間、好きなように日が落ちた所に泊まりながら、田舎町のAntique Shopを回る。いつもそんな旅をする。
道が下り坂になり、前方にカーブのサインが見えた。スピードを落とした。カーブを曲がった時、「Antiqueのサインがあったよ」助手席の妻が言う。ブッシュの中である。まさか、と思ったが、一応引き返してみた。
成る程、私の目につかなかったのが不思議な程の、立派なサインである。Shopまで200E、とあるが、何も見えない。サインの横に、車一台が通れる位の道があり、乗り入れた。短い雑木林のトンネルを潜り抜けると、一度に視界が開け、メインストリート一本だけの、人家30軒あまりの村が、忽然と現れた。
Crabbes Creekだった。すぐ右手に、くすんだ色の板囲いの上にブリキの屋根を乗っけたような、雑貨店があった。土地の若者達と思える、御世辞にもあまり良く見えない連中が、その店の前でビールを飲んで騒いでいた。少し行っても何もなかった。まさか、あの雑貨店が、と思ったが、引き返した。
車から出ると、騒いでいた連中が一斉に私達を見た。中の一人がニタッと笑ったので、目で挨拶を返して店の中に入った。そこがやはりサインのAntique Shopだった。
薄暗く、波を打っているような床の店内は、雑貨店も兼ね、よく観察すると、Post Officeにアルコール類を売るLiquor Barn、おまけにその場で飲めるパブまで兼ねている。表には旧式のポンプもあったので、ガソリンも売っているに違いない。
Antiqueは、店の奥まった別の部屋にあった。ビールを飲みながらAntiqueを物色出来るのは、何百という店を見て来たけれど、この店が初めてで、妙な店もあるものと、感心した事だった。
妻はバイオレット模様のAntique陶器を集めている。良い物はあまりない。ところが、この店の汚れたテーブルの上に一揃い、ポツンと置いてあり、安く購入した。
豪州は、車で旅をしていると、気の遠くなる程大きな国である。行けども行けども変わりばえのしない風景、何処までも続くブッシュ、まばたきをする間に通り過ぎてしまうような小さな町にAntiqueのサインを見つけると、フト車を止めて寄り道をしてみようか、という気持ちになる。そんな旅人を対象に、こんな所にこんな店があるのかと、豪州人の生活に望む逞しさと、アイディアを感じる。
Ipswichを通り抜け、Brisbane Valley Highwayに乗ると、Kilcoyという古い町に行く途中、Fernvilleという、こんな所にも人が住んでいると感心するような、小さな村に出くわす。そこにもAntiqueのサインがあった。納屋のように見える店の中に、驚くばかりの面白いコレクションがあった。その中で、お茶のサービスもしてくれる。勿論、客は私と妻の二人のみだった。
日本人の感覚では、まったく真似の出来ない、豪州のAntique Shopである。
|