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1996年9月号・其の12 BELL BIRD

「カーズエ、お前はまったくBell Birdと同じやな」

 私の刀剣関係の友人、ネビルをBrisbaneのGAPの自宅に訪ねた時の事だ。私は一時、豪州内の日本刀を手当たり次第に集めていた時期があり、様々な質の刀を持っていたので、ネビルが茶化してそう言った。

 私はその時、Bell Birdという鳥を知らなかった。豪州では、収拾癖のある人間を称して、Bell Birdに例えるらしい。その小鳥は何でも、特に光る物を集めて、巣の周りを飾るという。その鳴く声は、「まるっきり、ベルの音と同じでっせ」。そう言って、ネビルが感心したように、遠くを見る目つきをした。

 数年前、数人の道場の門弟達に誘われ、Cape York半島の中間点位まで4WDを駆り、ハンティングに出掛けた事があった。Pigというが、猪だ。訓練した数頭の犬に追わせ、犬が噛み付いた猪の隙を見て、飛び込み様、ナイフで刺殺する。ライフルを使用しない。猪の牙に少しでも擦られると人間の股等、バッと裂けてしまう凄まじい狩りである。我々は、ワニの生息するクリークの近くにキャンプした。

 それはその近くにあった。「センセイ、これがBell Birdの巣ですよ」一人の門弟が指さして教えてくれた小さな巣は、地面からやや盛り上がった、小さな砂丘の中程にあった。

丸い小さな穴が真ん中にある。その周りに、ビンの欠けらに栓、ライフルの薬莢、ガラス、釘等々、様々のがらくたが何十となく、雑然と並べられていた。微笑ましい程に精一杯集めて飾られた、楽しい巣だった。キャンプしている数日の間、何回となく行ってみたが、ただの一度も鳥の姿は見られなかった。

「変わってるぜ、あそこは。まず、絶対に見過ごせないな」NSW、LismoreのAntique Dealer、友人のバートが熱心に勧めてくれる。「俺の友人がMuseumの主人だから、ぜひとも寄ってくれ」。

 年に何回か、フラリとどこかに行きたくなる時がある。毎日、のんびりと生きているので、特別に休暇等欲しくはないが、知らない町で日が暮れて、そんなら今夜はここに泊まろうか、というまったく計画のない旅をいつもする。

 Gold Coastから国道1号線を2時間程南下すると、Ballinaに着く。右折して内陸に入り、NSWの美しい小さな田舎町Alistonvaleの州境に向かって、田舎道を北上する事にした。

 Nimbinは、かの有名なヒッピーの町である。Main Streetの商店街は、どの店も様々なアイディアで、不思議な感覚の色彩をほどこしてある。ヒッピー達があちらこちらにたむろし、それが原色の壁画に溶け込んで、妙な雰囲気をかもしだしている。

 Museumがあった。主人らしい、この上なくヒッピーの男が、入口の道路に座り込んでいた。独特の香料の臭いが、重く鼻をつく。
「気味が悪いから、話しかけないでくれ」その男に話しかけようとしたら、一緒にいた妻に止められた。

 Nimbinを出て、さらに山道を西に走ると、Cawonglaという家が数軒の村があった。そんな所に、一軒のPottery Shopがある。変わったデザインの渋い皿があり、気に入って数枚購入。

 Kyogleは、ちょっとした高原の町だった。Antique Shopに、面白いSide Boardがあった。値段もてごろである。迷ったが、結局買わずに町を出た。

 Kyogleから州境に向かい、Mt Lindsayという美しい山を、様々な角度から眺めながら、走る。州境の手前で道を間違え、Woodenbongという、一体この村の人々は何をして生きているのだろう、と思うような人家2百戸程の村に出た。

 引き返す。町が上がりきり、そしてやや下り気味の良い道に出た。昨年の12月の事である。対向車は全くなし。木々が青く、すこぶる快適である。空腹を覚えた時、前方にRest Areaのサインが見えた。近づくとBell Bird Rest Areaとある。

 車を徐行させ、寄ってみた。Mt Lindsayを垣間みて、高く青くのびた木々の間の小さな丘を切り開き、数脚のベンチとBBQの設備があった。勿論、誰もいない。車のドアを開け、外に出た。

 その途端、我々の体いっぱいに、リンリンと鈴が降った。その音は、聞こえる、というよりも、降る、と形容した方が当たっていた。その鈴の、何と澄みきった美しい音であることか。1個や2個ではない。何十となく、リンリンと鈴が降る。

 私達は陶然として、その場に立ちつくした。黒っぽい色の、何の変哲もない小鳥が、無数に飛び交っている。まさか、あんな鳥がこんな美しい鈴を鳴らせるはずがない、と思えるが、私にはそんな鳥が鳴らせているのか、分からなかった。

 前夜にBallinaに泊した時、購入したTake Awayの残りがあった。旅をしている時は、その土地のTake AwayかPUBのCounter Lunchを食べることにしている。安いし、その土地が見える。

 固くなったチキンを食べ、温かくなっていた残りのワインを飲んだ。上からは、絶えることなくリンリンと鈴が鳴る。冷たくなった残り物が、うまい

 豪州の自然保護対策は、時に行き過ぎて、自然と人間とのバランスがとれない愚法もあるが、政府が強すぎて、人口の少ない広大な大地のこの国には、余裕という良い面も、時には顔を出す。あんな山の中にも、何とも素晴らしいRest Areaがあった。あの時の旅を思い出すと、今でも私の体の中に、リンリンと無数の鈴が鳴る。

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