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1997年3月号・其の17 BREAD TREE

 正確にはBread Fruit Treeという。キャプテンクックが豪州探検の際、将来の食料の備えとして、持ち込んだ物らしい。ケインズ周辺にも普通に見られ、フルーツとしては大きな木の部類である。

 実の大きさは、ロックメロン程度。若い松かさに空気を入れ、真ん丸に膨らませたような感じの実は、表面の細かいデコボコが、少しスムーズになってくると、食べ頃という。

 6年前、私は現在のMoorooboolに、気に入った家を見つけて購入。15年住んだEdge Hillから移転した。敷地が広く、家の裏側はクリークの為、市のEasementになっており、自分の土地同様に使用出来るので、全部で1 ACRE以上の広さになる。

 前のオーナーが、オレンジ、マンゴスティン、ライチー、バナナ、ランブータン等々、20種類以上もの果物の木を育てていたので、今でも季節に応じて、自然の恵みを楽しむ事が出来る。パンの木もその中の一本で、今、枝がしなる程の実を付けている。

 時々、ポッと旅に出たくなる。何処でもいい。行く気分になった時に出るのが一番で、計画も立てない。航空券と到着地での車だけを手配する。宿は何とかなる。

 カンタスで働いている娘が、南アフリカのケープタウンの赤ワインがおいしいよ、と言う。ヨシ、そこに行こう。ところが年末で、あまりに急だったので、航空券が取れない。取れた所が天国、と思っていたら、フィージーが取れた。まったく正反対だけど、まァいいか。という訳でつい最近、フィージーに行った。

 日本人観光客の多いSuvaやNadiは、興味がなかった。北へ走って、まったくローカルの村を訪ねた。マーケットに入るとすごい臭い。御世辞にも清潔とは思えない。インド人が多いので、その雑踏ぶりはすごい。人なつっこく、陽気で怠け者の多いフィージー人と、外来者で働き者のインド人との間には、大きな壁の存在が感じられる。これはフィージーの大きな問題となるだろう。

 フィージーの北東部は、熱帯雨林の山間部である。舗装のないガタ道を、景色を楽しみながらユックリと走っていると、繁った樹木の間から、突然小さな村が出現する。村人達が一人残らず、我々に手を振ってくれる。子供達は、家から駆け出して来る。その人なつっこさ。

 山間部には、パンの木がよく目に付いた。最初は野生かと思っていたが、パンの木の近くには必ず村があったので、植え込んだものなのだろう。タロイモ、タピオカ等の芋類が主食の村の人々にとって、今でもパンの実は、大切な食料源なのだと思った。

 食べ方は、やや固めの実の皮を剥ぎ、リンゴのように切ってボイルする。フィージーでは、それを薄く切ってサラダに使用するという。かすかな甘味のある、癖のない味である。御菜というよりは、むしろ主食にすれば良い味で、もしかしたらそんなところところからパンの実、という名が付いたのかもしれない。

 ボイルの後チップスのように薄く切り、油でパリッと炒め、熱いうちにサッと軽く塩を振って食べると、サッパリとした味でうまい。妻に言わせると、「そんな七面倒くさい事をするンなら、ジャガイモを使う方が、ずっと味があって美味しい」。と、根っから面倒臭がって料理してくれない。我が家のパンの実は、熟れすぎて枝から落ち、牛の糞のようにペチャリとつぶれている。

「ダンナ、何処からおいでなすった」。

 芋のような英語で、ヘラヘラとガイドをからかっていたものだから、普通の日本人観光客のオジンとは様子が違う、と思ったのだろう。

「豪州のケインズに住んでまンネ」
「何の商売やってまっか」

 私という人間は、何をやって生きているのかまったく見当がとほとんどの初対面の人が言う。

「カラテのセーンセ」。

 フィージー人のガイドが珍しい生き物でも見るような目つきで私を見た。一日だけ、フィージーの山奥を4WDで訪れる、客は6人限りというツアーがあった。それに申し込みに行った時だ。

「ダンナ、フィージーはこれからの国でっセ。豪州みたいなつまらん国にいないで、この国で教えた方がいいよ。ダンナみたいな人が要る。この国はいいよ。第一、豪州人は怠け者で、しょうがない国民でっしゃろ」。思わず笑いこけてしまった。

 14年前、豪州の政権は労働党に移る。政権の座を維持する為に、新政府は極端な社会保障制度を打ち出してくる。金で人民を動かす事。人間という生き物には、物を只で与え続けるものではない。

 最初は有り難がっていても、それが当たり前となり、やがてはもっと欲しくなる。そして誰もが、幾らでも金を出す政府から、いかにして金を引き出すか、に変わってくる。そうなると人間のモラルや意欲は、雪だるま式に低下し、実際個人で事業をしている連中等に、その税の重荷が押しつけられる。

 金の無駄使いで、豪州は世界でもトップの借金国。金が無くなるより、金で荒廃する人民の心が恐い。その政府も昨年、あまりの国の低下振りに、ホンの少し目が覚めた国民の反撃で、ついに撤退。現政府はその後始末に大童。結果が見えるのは先の話だろう。

 管理さえ良ければ、世界でもトップの豊かさを誇れる資源国、豪州。太平洋の点の国、芋が主食のフィージーからも、Lazyと笑われない程人民の意欲が向上してくるのは、そう遠くはない、と思いたい。

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