"ケアンズ通信" のページのインデックスです。

ローカルニュース
GBR通信
バラマン爺
珍プレー好プレー!?
おしゃべりクッキング
ママのため息
豪州人、日本人〜
ケアンズ日記
スタッフ日記
編集部への直メールはこちら


1997年9月号・其の23 ゴルフ一刀流

 日本刀で物を斬るには、背後を突き刺す感じで両肘を曲げたまま軽く振りかぶり、肘を伸ばし手首のスナップを利かせ様、大きく半円を描くように振り下ろす。体を円の中心と考えると、刀身と腕はその半径。半径が長い程、切先の描く円周は大きくなる。

 刀は遠心力の原理で斬る。円周が大きくなる程、遠心力も大きくなる。つまり物打ち(切先3寸下の斬る部分)に作用する為にある。斬れる。刀の反りはその遠心力をうまく利用する為にある。

 素人に斬らせると、必ず肘を曲げて振る。円周が小さくなるので、振る、というより、叩く、感じが強くなり、刀の反りと斬る動きが合わないので、まったく斬れない。

 えらい事になった、と思った。この私がゴルフをしなければならなくなりそうだ。私のヘソは普通の人間よりかなり曲がっている。流行は全く追わない。皆がやる事には興味がない。誰もが行く名所には行かない。豪州に30年以上もいながら、まだ一度もゴルフをやった事がない。豪州中歩いたけれど、観光客が必ず行きたいと言うエアーズロックだけは、行く気がしない。羊の群れのように、先頭の羊に先導されてついて行くような生き方や好みが嫌なのだ。

 つい最近ニューカレドニアに行った。ヌメアの空手仲間が、歓迎パーティーの代わりにゴルフをやり、その後一杯やろう、という計画を立ててくれていた。仲間の一人の叔父が、大きなゴルフ場を持っている事から考え付いたのだろう。無下にも断れない。やった事がない、と言い訳したが、俺もそうだというのが二、三人いる。後には引けなくなった。

 ゴルフ場は美しいヌメアの町から、小1時間走った所にあった。周囲には野生の鹿が沢山棲息しているという素晴らしい環境である。

「オス、センセイの道具です。オス」

 自分で転がして歩く長いショッピングバッグにコロの付いたような、ゴルフのクラブ入れをもらった。こんな格好の悪い物引いて歩き回るのか。クラブが何本か入っている。その違いが分からない。

 一本手にとって振ってみた。重心が先端に感じられる。何回か自分なりに振ってみて、これは刀を振るのと同じ要領で良いのではないか、と思った。肘を曲げて打つと肩に力が入り、振りが固くなって腰の回転に合わない。叩いてしまう。腰の回転と共に素直に腕を伸ばして振り切ればいいのだ。

 上半身裸の人間を仰向きに寝かせ、腹の上にリンゴを置く。人間を斬らないで、抜き打ちざまに斬る。シャープな刀の刃が皮一枚で、スパッ、と止まるまで、リンゴが人体と接触する部分から目を逸らしては駄目だ。私は居合いをよくするので、こんな訓練は自然に出来ている。皮一枚を残して果物が斬れる程正確に重い刀が振れるなら、クラブで地面のボールをひっぱたくのは、そんな難しい事でもあるまい。

 クラブの握り方は独特のグリップがあるらしいが、初めての私には妙にぎこちなく、肩に力が入ってしまう。まァいいか、今日一日だけだ。刀と同じ持ち方にした。物を斬ろうと思わず、自然に体の流れで刀を振った方が、思いがけなく斬れるものだ。

 私の番が来た。うまいのもいれば、ゴルフ場の芝をクラブで振り回しているのもいる。天気は上々。広いコースには、我々以外他の人影もない。気持ちがいい。ボールを見つめてクラブを振りかぶった。体の回転に合わせて腕を伸ばし、力を入れずに自然に振った。

 良い音がした。目を上げると、ボールは真っ直ぐに飛んでいる。力を入れていないので、距離はあまり出ない。グリーンに達するのに3回か4回打たないと駄目だ。とにかく真っ直ぐに打てれば必ずグリーンに向かっているのだから、気が楽だ。ボールも大きいし空振り等しない。いつも真っ直ぐに飛んだ。問題はグリーンの上だった。力の配分が分からない。ホールの上を入ったり来たり。

 9ホールの終わり頃、私は結構良いスコアを出していた。少し欲が出た。もう少し飛ばしてやろう。それまで自然に打っていたのに、力を入れようと力んだので体の何処かに無理が出たのだろう。初めて打ったボールが大きく右に逸れた。欲を出してはしそんじる。

 生まれて初めてのゴルフで真っ直ぐに打てたのは、空手と居合いの体の使い方のお陰だろう。4打以内にホールに入れるとか、距離を飛ばす等となると、それなりに高度な技術が必要となるだろうが、遊びでやっている私には、そんな事はまったく関係ない。広いゴルフ場で何のプレッシャーもなく、好きなように自然に打っていると、ゴルフも又楽しいものだ、と思った。

 ニューカレドニアもヌメアを一歩出ると、広大な自然で高い山々が美しい。豪州も又同じ。自然の有り余った国でのゴルフ場ならば、余裕、という面も顔を出すけれど、猫の額のように狭い国、日本でのゴルフブームはどうだ。どう見たって不自然な楽しみ方のように私には思われる。

 一番の弊害は、自然の少ない国の山を崩し、森を伐採してまで一部の階級の為のゴルフ場建設であろう。人間も自然の一部なり。自然を破壊し自然から離れれば離れる程、人間の機能の何処かに障害が起こる。

 癌の異常なる増加、アトピー、花粉症等々の現代病に限らず、殺人を何とも思わないような異常精神を持つ人間の増加。高度な文明だけが人類の繁栄ではないんだよ。自然の懐の中で遊んでいると、こんな自然からの警告が聞こえてくるような気がする。

戻る


 Copyright (C) 2002 LIVING IN CAIRNS All rights reserved.