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1997年11月号・其の25 LONG WAY TO BED

 成田エクスプレスで新宿に着くと、台風の近付いていた東京方面は雨だった。タクシーが拾えない。中野まで重い荷物を抱えたまま、都電で行くしかない。

 1年振りの日本。ここ2年程、右肩が悪い。首の筋肉の障害でPHYSIOに行ったところ、逆に肩をダメッジされ、ケインズの何人かの医者に診てもらったが、一向によくならない。普段の生活には不自由ないが、空手や特に居合いの稽古中には、時折鋭い痛みを伴い、瞬間的に腕が使えない時がある。

 肩を庇う為、腕を伸ばしたまま体を左側に倒すようにして、荷物を運んだ。それが結果的に良くなかったらしい。翌朝、少し右腰に痛みがあった。その時に注意すれば良かったのだが、55歳の今まで、現役で空手の稽古をしてきたから体に自信があったし、腰を痛めた事もなかった。気にも止めなかった。

 日本に特別の用があった訳でもない。娘に1ヶ月の休暇があったので、それならチョット日本へ行くか、私の友人に会う絶好のチャンスでもあり、急に思い立って親子三人、買い物がてらにやって来た。

 東京では、電車に乗ると乗客の無表情なこと。群衆が無言のまま、整然と大量に移動する様は、一種の不気味さえも感じられる。それに若い女性。私の若い頃には、色々なタイプの女性がいた。ノッポ、チビ、デブ。ベッピンもいればオカメもいたし、それでも一様に貧しいなりに、元気ではちきれそうだった。今の日本の女性は、私には皆同じ顔に見える程、平均的にきれいになり、同じ様なファッションを身に付け、そして異常なまでに病的に細い。

 物質的に豊かになり、物質の量が人生の豊かさの基準に考えられる、金、中心の世の中になると、こんな女性達が出来上がってくるのだろうか。ファッションと旅、ボーイフレンドの事以外は、何の興味もないような印象をうける。それはそのまま、社会の中堅を形成する私達40、50歳代の、心の貧しさに繋がってゆくのだろう。

 私はアメリカ、という国は、あまり好きではないが、それにしても、日本を見ていると、アメリカは凄い国だ、と思わざる得ない。戦後、民主主義国家への建設援助と恩を売りながら日本を解体し、プライドを取り去り、独立国のように表面的には扱いながら、植民地と頭から言われても、何の抵抗も示さない、日本人でありながら日本人の魂を無くし、アメリカの言いなりになる集団を創り上げてしまったのだから。

 自分の国にプライドを持たない自称先進国の国民ベスト2、を選べと言われたら、私は躊躇なく日本人と豪州人を挙げる。そんなところでは、日本人と豪州人はウマが合う、のかも知れない。

 日本3日目の朝。急に右腰が痛くなった。動けない。1週間寝る羽目になった。何の事ない。日本にわざわざ寝に行ったようなものだ。

 "It's a really long way to go to bed" 。

 帰国するとオージーの口の軽いのに言われた。「エライ遠いとこまで、寝にいかはりましたナ」日本人は苦しんでいる病人に、こんな憎まれ口をたたくセンスを持たない。この野郎、良くなったら一発蹴ってやるからな、と面白がった。

 帰国に際して、飛行機に乗れるかどうか心配していたが、成田のカンタス支配人が娘の知り合いのオージーだった。寝て帰れるよう席を都合してくれ、妻と娘の毎日の買い物の成果、150キロ近くの荷物も、スンナリ積み込んでくれた。ちなみに私の歩けた間の買い物は、番傘1本。チョイとしゃれた盃。刀掛けと古物屋で戦時中の日章旗の寄せ書き2枚、なり。

 会わねばならなかった友人は、小池邦夫。絵手紙、という分野で、手紙に絵と毛筆を取り入れ、新しい世界を開いた第一人者。都電に乗り込むと、小池の個展のポスターが、あちこちで目に付いた。

 小池とは高校時代を通して私は空手、彼は書道に青春をかけてツッパリ通した、心に残る友人である。今でも同じである。彼は書に、私は空手に人生を懸けた。小池は日本で大成し有名になったけど、私は相変わらずケインズのような片田舎で、熱し易く冷め易い、オージーの不肖の弟子共を相手に、何とか生きている。世の中の俗事に惑わされる事もなく、好きな事をやって生きて来れた我々の人生に、乾杯!!

 小池は来年の長野の冬季オリンピックで、世界の100ヶ国を結びつける絵手紙展を準備中だ。2000年のシドニーオリンピックでもやりたいが、豪州という国民性がつかめない。

「松本、お前、力になってくれんかノー」

帰国の前日、痛む腰を引きずって小池に会った。オージーの絵手紙に対する反応が分からないけれど、とにかく「ケインズで一度、セミナーをやってみろ」。話はトントン拍子に進んで、11月18日、忙しいスケジュールを遣り繰りして、4日間ケインズにやって来る。セミナーは19日、20日のみ。無料で小池自身が道具も日本から用意してくると、至れり、尽くせり。

 場所は現在物色中。1回のセミナーは40名が限度。絵手紙で世界を結びたい、という小池の情熱には、文化交流という大きな意義もあるので、何とか成果を出してやりたいと頑張っている。セミナーに興味のある方は、私の方に連絡して下さい。

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