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1999年5月号・其の39 RIP OFF

 最近、車を替えた。それまで使っていた車は良い車だったので、別に替える必要もなかったのだが、8年も乗ったので、ぼつぼつ気分転換でもしようかと思った。

 新車の代金、4万6500ドル。豪ドルが弱いとは言え、ごく普通の日本車がこんなにも高い。まァこれは仕方ない、として、問題は古い車のTrade Inの値段。行きつけのディーラーが出したそれが、1万2000ドル。コリャ安い。とてもじゃネェや、と思って道場の門弟に当ってみた。私の道場の人脈はすごい。まずあらゆる関係の人間がいる。車関係ではダレン、という男がいい。

「Trade Inは、いくら欲しいスか」と聞くので、2万、と答えておいたらその翌日、早速彼の友人のディーラーが、私の家までやって来た。私の車をチェックし、同じ新車を購入してTrade In 2万、あっさりとOKしてくれた。ダレンが最高2万、と踏んだ額だった。ところがだ。私のディーラーがそれを知り、長い間の客を他に取られるのはいやだから、損を承知で2万出す、と言い出した。「何だよ、今さら」とカチンときた。

 私は長年、良い客だったと思う。私のみならず、知人もよく紹介してやった。それだからTrade Inは、他よりも良い値をつけてくれていたし、まさか、私の足元を見たりはしないだろう、と思っていた。そのまま最初の値段でTrade Inしていたら、8千ドルもボられていた事になる。ボる事、英語ではRIP OFFと表現する。

 のんびりした田舎町のケインズが気に入り、住み着いて24年。どうやら最近のこの町は、良き時代のケインズを知っている私には、RIP OFF TOWNの様相を呈してきたように思う。観光地だから仕方ネェよ、と、言えばそれきりだが、観光とは縁がなく、1人のローカルとして住んでいると、この町は田舎の割には何でも高い。同じ物の値段、賃仕事、機械類の修理、工事等、この小さな町の中で、差の激しい事には驚く、と言うよりもあきれる時がある。

 不動産の家賃の踏み倒しは、日常茶飯事。私も不動産を何件か持っている。私の年になるまで豪州で地道に働いていたら、不動産の数件もっていて当たり前で、自慢にもならぬ。物件は、レストランや住居などに貸しているが、今まで未回収の家賃は、4万ドルに近い。豪州の法律は、持ち主よりも借り手に有利に出来ているから、裁判に持ち込んでもラチがあかない。家賃等、払わない方が得をする。豪州人は金に汚いところがある。金を貸すと、まず返ってこない、と思っていた方が良い。

 豪ドルの安さに比較して、日本円はまだ強い。日本人にとって、豪州は何とも物価の安い国に思えるだろうが、それだからこそ、比較的金払いがきれいで値切る事のへたな日本人は、よいカモになっているのがよく分かる。

 イースターに、1週間かけて、シドニーから西部の奥地をドライブして、ブリスベンに抜けようか、と思っていたが、急に気持ちが変って、インドネシアのバリ島へ行った。

 ここのRIP OFFぶりは、すごい。ここでも小金を持っている日本人は、上客というより正にカモで、ツアーに入らないでローカルの間に1週間もぐり込んだ我々は、数多くの面白い経験と、いやな目に会った。

 豪州人に一番ポピュラーな観光地というだけあって、カモの日本人と、あまり金のない豪州人とでは、同じ物でも値段が二通りあり、俺達豪州国籍だゾー、と言うと、値切った値段よりも、必ずまた安くなった。

 ジンバラン、という夕日の美しい海岸の、砂の上のレストランには、よく行った。そこのウェイター達と顔見知りになった。彼等の1ヶ月の給料、25万ルピー(豪50ドル)。私が5日間使ったタクシーの運チャンの、家賃も含めての家族1ヶ月の生活費、60万ルピー(豪120ドル)。そして私と妻の、たった1回分の食事代、40万ルピー(豪80ドル)。ボロ儲けだ。RIP OFFも、ここまでやられると、感心して支払ってしまう。

 私に車を世話してくれたダレンは、とにかくRIP OFFしたり、される事ほど、いやな事はない、という豪州人には珍しく潔癖なところがある。道場の稽古は、ほとんど毎日来る。休む時は、必ず電話で知らせてくる。休む時や稽古を止める時に、キチンと知らせてくる生徒や子供の親は、まず信用出来る性格としっかりした家庭の持ち主だ。

 ダレンは車のタイヤ業界で長年働いていたが、彼の正直さに多くの顧客が付き、この最近独立して、ケインズで一番安いタイヤショップをオープンした。Quick Fit Tyre Service。417のMulgrave Rd 、バラクラーバ小学校のすぐ前だ。私はケインズの日本人社会には知り合いがまったくいないので、日本人の間ではほとんど知られていないが、ダレンの所でタイヤを取り替えてみよう、と思う人は、ダレンに会い、マツモトに聞いた、と言えば良い。必ず親切に、正直なサービス、又車のアドバイスをしてくれるはずだ。

 正直者が馬鹿を見る事の多い最近の世の中で、彼のような人間のビジネスは、サポートしてやりたいと思う。

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