"ケアンズ通信" のページのインデックスです。

ローカルニュース
GBR通信
バラマン爺
珍プレー好プレー!?
おしゃべりクッキング
ママのため息
豪州人、日本人〜
ケアンズ日記
スタッフ日記
編集部への直メールはこちら


1999年6月号・其の40 年をとる暇がない

 先陣は、ジェイクだった。9歳という年齢の割には、4歳か5歳位にしか見えないほど、小さい。それでも、私の道場のマスコット的存在になっている、面白いキャラクターの持ち主だ。試合場の端に両足を揃えてキチンと立ち、ピッ、と礼をしてマットの中央に歩み入り、相手と向かい合った。いかにも落ち着いていて、子供のように見えない。

 体が小粒なので、組手(スパーリング)の試合は心配していたが、ヨシッ、これは何とか行けるぞ、と思った。

 私の道場には、沢山の子供が稽古に通って来る。最近の子供は甘やかされて育っているので、集中力のない、体のバランスさえ自由にならない子供ばかりだが、曲がりなりにも1年稽古を継続すると、見違えるようにしっかりしてくる。それがまァ、私の楽しみとも言える。

 豪州人は特に飽きっぽいので、子供の興味を維持させるために、色々の行事や稽古体勢を考えているが、一番は、大きな目標を与える事、だと感じていた。その手っ取り早い方法は試合に参加させる事だが、正式な州大会はブリスベンのみで開催される。子供1人当たり最低600ドル以上の費用が必要になってくる。この費用の点で引っ掛かっていた。

 10年程も前、関西大学空手部の強豪、大坂経法大空手部40名がケインズを訪問。私の道場で10日間の合同稽古をした事があった。その時の部員に、上田健次郎、という若者がいた。

 たまたま同じ松山出身という事で、その後も日本へ帰った時、松山で会っていたが、出来れば豪州に永住して私と一緒に空手をやりたい、と言い出した。97年の全日本糸東流選手権で優勝した実力の持ち主である。

 コリャ又、えらい事を言う奴っチャ、と思ったけれど、頼まれれば、NO、とも言えぬ。私の道場がスポンサーとなり、諸々の問題もあったけれど、ある日、ポンと永住権が取得出来た。これには願書を作成した私の方がびっくりした。健次郎が来れば、豪州制覇を考えてみるのも面白い。手始めに何人か、5月の州大会に出場させてみる事にした。

「ショウブサンボン、ハジメ!」

審判のヘタクソな日本語の号令で、小粒のジェイク、ピョコピョコと動き出した。対戦相手は彼より一回りも大きい。小粒のジェイクを見下したように、すぐに蹴って来た。ジェイクがサッと蹴りを横にさばくと、踏み込み様、ポン。腹部にきれいな突きを入れた。審判の手がパッと上った。ワーッとケインズ勢が歓声を上げる。行けるぞ。

 ジェイクはその後も善戦し、相手に一本も与えず、三本を先取りして快勝した。彼の部は、10人のエントリーを相手に見事、優勝。

 大会出場を決意した後、私は子供の中から17名を選んだ。普通のクラスの稽古中は人数が多いので、選手達を特に見てやる訳には行かない。土、日を返上するしかなかった。特別稽古は、2月の終り頃からスタートした。稽古時間は、4時から6時までの2時間。私1人の指導なので、1人当たりに使える時間は、10分もない。

 試合まで、のべ3週間余りの稽古日数として、約200分(3時間20分)を1人の子供に費やす事になる。少ない。後は子供達のやる気と努力を期待するしかない。才能のある子供を選んだのだ。何とかなる。やるしかネェだろう、と腹をくくった。

 子供達の年齢9歳から17歳。皆よく付いて来た。10分とは言え個人指導なので、見る見る内に良くなってきた。

 子供には押し付ける教育をしないで、自由意志を尊重する、とか、何でも子供とよく相談して決めるようにしています、とか言う先生や母親が増えてきた。それを信じる人の何と多い事。教育というものは、何も知らない子供に施すものだから、根本的には押し付けるものなのだ。何も知らない子供の意志を、どのように方向づけ、無知な子と何を相談するのか。

 馬鹿言っちゃいけネェ。子供は元来なまけものだ。教育されるのを好む子供はいない。この子供達に正しい教育を与えるには、押し付ける事から始めなければならない。問題は押し付ける側に、教育への信念と、その人の人生の哲学が存在してこそ、その押し付けは生きてくる。

 親としてのしっかりした信念のない母親が、一見正論とも思える屁理屈を言っても、それは自分の信念のなさをカバーする甘えと、親としての責任転嫁でしかない。そんな親の下で、しっかりした子供が育つはずがない。

 私は子供達に、空手という一つ事に集中する事により、彼等のこれからの人生に勉強以上に大切な、彼等の人格形成への根本となるものを植えつけてやりたい。稽古という過程において、自信とか尊敬心、集中力や礼儀等は、知らぬ間に育ってくるものだ。

 州大会の各イベントの1位と2位は、自動的にクイーンズランド州空手チームに選ばれる。私の道場から大人5名、子供17名を出場させ、大人4名、子供15名が州チーム入りをした。次は7月にタスマニアで開催される、全豪州大会だ。私は今年57歳。まだまだ頑張りマッセ!

 まったく歳をとる暇がない。

戻る


 Copyright (C) 2002 LIVING IN CAIRNS All rights reserved.