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第9回
マウントアブーの奇跡



ウダイプル(ニューデリーの南西部の都市)から
埃まみれのおんぼろバスに揺られて6時間。
そこに避暑地で有名なマウントアブーがある。
ここまでの道のりは、ある1人の癖のあるバス運転手から始まった。

Driver

この運転手、かなりのボス面で、
目が見えないレイバンタイプの漆黒のサングラスをかけ、
体は大きく、サイクルリキシャーのウエストの3人分ぐらいあり、
オートリキシャーの5人分ぐらい横柄である。
生まれながらの”ボス”である。

このボスが操るバスが来ると
乗客は急いで荷物を載せなければいけない。
まだ載せ終えていないのに発車してしまったりするからだ。

彼はとにかく気が短いのである。
そのくせ自分の事には寛容で、途中で急にバスを止め、
自分が欲しい野菜を手下に買いに行かせる、
対向車線のバスを止め、話し込む。
道幅が狭い所に来ようものなら対向車には絶対譲らない。
とにかくボスは強いのである。

だがそのおかげか、バスはボスが費やした所用時間を巻き返し、
ほぼ予定どおりに着いた。






マウントアブー。
かつてのマハラジャー(昔の地方の王様)の避暑地である。
今ではインド人のハネムーナー達の人気スポットでもある。
他の町に比べて埃が少なく、なんとなく現地人も穏やかである。
久しぶりにのんびり町を歩けるのが妙に嬉しかった。





ここの山の頂きにはジャイナ教の聖地のひとつ、ディルワラ寺院がある。
同じホテルに泊まっていたイギリス人は
“ここは凄いぞ!絶対見に行かなきゃダメだ”
と熱を帯びた調子で教えてくれた。
本にも“気が遠くなりそうな寺院”と書いてある。
面白そうな予感のする場所だ。

実際行って門をくぐるとドギモを抜いた。

ひとつひとつ全く違う彫刻が、リズムと流れを創る。
ありとあらゆる視界が許す範囲が
恐ろしい程の精密さ完璧さで、まさに“曼荼羅”を創造している。
言葉に出来ない程凄い。

1031年、1500人の彫刻家が14年間、
1500人の人夫を使ってこの寺院は完成された。
白亜の総大理石造りで、
石は遥か何百キロも離れたジャイプルから
象を使って運ばれたそうだ。

52のセクションに分かれた空間は
全てが緻密で彫りの深さは脅威だ。
まるで輪廻を表しているように
何段も何段も何段も繰り返され、
見ていて感動を呼び起こす。
流れであり、円であり、潔癖である、そんな印象を受ける。

これはまさしく神がかった芸術的正確無比の逸物だ。
天井、柱、神殿、外壁、全てが宇宙と接がっている気がした。

temple


ジャイナ教は仏教とヒンドゥー教の融合したような宗教で、
“業はすべての行いから創られる”と信じられている。
殺生を嫌い、中には口を虫が入り込まない様に覆い、
アリを踏まない様に道を掃きながら歩く信者もいる。
だから彼らの商売は正直で信用されていて
成功している人が多いそうだ。

この“集中力”によって創られているこの寺院は
まさに”奇跡”だった。
実はこの寺院、裏にもう一つ同じ規模の
同じ精密さの寺院があった。
まったく“奇跡が奇跡を生む場所”である。

しばらく放心状態で眺めていると
インド人観光客がガヤガヤと入ってきて、
ガイドがせわしくヒンドゥー語で2、3分説明したかと思うと
サッサと参拝して出て行ってしまった…。

この“奇跡”に同じく感動していた
老ドイツ人夫婦と唖然としていると
今度は子供の団体が来て、
寺院よりも僕達の方に興味を惹かれている。

何てことだ。
やはりここも“インド”の一部に組み込まれていることを知った。


SEIJI


SEIJI YAMAUCHI プロフィール
1997年オーストラリアから旅を始め、半年間東南アジアを陸路で巡り、次は中国からロンドンまでのユーラシア大陸撮影旅行、陸航路横断を達成する。その後ケアンズに4年留まり、絵画展、写真展、オリジナルパフォーマンスアートを展開、2005年リビングインケアンズの表紙、インタビュー撮影を担当、カジノや公共でのダンスパフォーマンス、ミュージカルにも出演。2006年の2月からインド一周、パリ、中国を撮影し、日本に帰国後、写真集旅日記を出版する予定。2006年10月に浜松でオペラ歌手とピアニスト共演のコラボレーションパフォーマンスがすでに決定している。



これまでの連載

2006-01-25 第1回 ケアンズからインドへ

2006-02-04 第2回 インドへ 出発

2006-03-07 第3回 列車の旅

2006-03-21 第4回 太陽と埃と野良牛の国から

2006-04-04 第5回 アーマダバード・1

2006-04-18 第6回 アーマダバード・2

2006-04-26 第7回 水上宮殿に泊まる・1

2006-04-26 第8回 水上宮殿に泊まる・2

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