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第11回
街の太陽 ジャイサルメール



インドの西へ。ジョードプルからパキスタンの国境近くのジャイサルメールを目指す。

セイジの旅日記 バスの休憩所では、色鮮やかなラジャスターン独特のサリーをまとった女性達がせわしく自分達の仕事をこなしていた。その中に紛れるようにして立って水を売っている少年と目が合うと、すかさず ” 水いらない?”と聞いてきた。持っているからいいよと言うと、”それはもう温くなってるじゃん。こっちは冷たいよ! ”と間髪入れずにインド訛りの大きな声の英語で僕に告げた。ここラジャスターン州の西は砂漠地帯で、陽射しも突きさすように強く乾燥していて焼けるような暑さだ。確かに、持っている水はぬるいというより熱くなっている。するどい太陽光線がペットボトルを通り抜け、屈折してバスの天井にキラキラと揺らいでいた。
 真上の太陽が少し傾きだした頃、気温は自分の体温よりも高い40度近くになっていた。暑い!熱風がまたバスの中を通り抜ける。普段より大きく見える太陽が、知らない間に日があたる右腕を小麦色に変えていた。


















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 ジャイサルメールに到着すると目の前に巨大な城壁がうず高くそびえ立っていて、辺りの風景を遮断していた。その中を窮屈な石畳の道が入り組んで走っている。そこをすれすれでリキシャーが走り城塞の中のホテルを目指した。途中、狭すぎる道路の上に城壁と同じくらい堂々とした牛の糞が点々と存在していて、それを勢いよく踏み飛ばし、”ビシャッ”とした荒げた音を何回も聞いた。


 今夜泊まるこじんまりとしたホテルの窓からは、驚くほどのまっすぐな地平線が見え、夕日を滑るように飲み込むと辺りを素晴らしいグラデーションに変えた。夜が深け込むと今度は強くて黄色いライトがこの砦を照らし出した。太陽が沈んで今度はこっちが”街の太陽”になった気分がした。
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 次の日、カラッとした晴天の中を探索してみる。昨日リキシャーが踏んだいくつもの牛の糞をいくつも見かけた。タイヤの模様をくっきり浮かび上がらせていて、”昨日の出来事”を生々しく記憶していた。それを通り過ぎると今度は埋まるように付いていた小さなハエたちが一斉に”ブワァー”という羽音を立てて飛び去り、僕がいなくなるとまたもとの場所に戻っていった。両脇の”人が造った”というメッセージがこもった四角いが丸みを持った家々は、色々な生活の情景を見せてくれた。面白かったのは、昼寝をしている老婆をよそに牛が玄関から頭を入れ中の様子を伺っていた。そして一声、のんびりとした”ンモォ〜〜”を吐き出した。まるで「こんにちは〜 誰かいませんか〜」と呼びかけているようだった。どこの街でも感じた事だがインドの牛は人間くささを持っている。



セイジの旅日記  露店や小さな店(特に衣服屋)もこの細い通路に点在していて、客寄せ合戦を展開していた。どうしても見ていってくれよと血走るような目で哀願された洋服屋の中に入ると、一人のスタッフが自然体でスッと出口に身を滑らせ、何事も無かったような態度でにこやかに笑顔でブロックしていた。生きる為の知恵だと感じた。



セイジの旅日記 インド商法では”NO"は存在しない。欲しい物を言って、そこに無くても”ある”と言い張り、違う物を出してくる。”これは違うよ”と言っても、”それならこれはどう”と言ってどんどん商品を出してくる。”これしかいらない”と強く言うと、”ちょっと待っていてくれ”といって他の店から取り寄せる。そうやってやられていると、なんとなく欲しかった物にだんだん近つ”いてくるから面白い。しまいには”まあこれでいいか”と思って買った事もよくあった。このインド独特の”NEVER GIVE UP”には関心した。







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 色々なサリーを着たインド女性、壁に掛かった色々な布地や色々な人種の観光客を見ながら、”ハヴェリ”といわれる様々な飾りを施したこの地方独特の飾り窓を見て回った。太陽が地平線に近づき出した頃、少し離れた丘の上から町並みを暖色に変える夕焼けを、様々な国籍の人達と一緒に眺めた。その中には”ここはすごいぞ”とマウントアブーで熱くて語ってくれたあのイギリス人「チェズ」とその彼女もいた。
こうやって偶然にまた再会して仲良くなるのも旅ならではの醍醐味だ。 人との出会いの面白さを実感できる。

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 暮れかかる景色を見ながら、その横で流麗な音色を奏でるジプシーの少年にチップを渡す。思いがけない事だったのか始めは驚き、そのあとは笑顔に変わった。けっしてお金を無心しなかったこの少年に”音楽家の誇り”を感じた。
 空ににじんだ赤色はだんだん色味を蓄え、その日にしか見せない”グラデーション”を創り出した。そして藍色の空間の中ににじんで消えていった。帰りの道で、あの”昨日の出来事”を知っている牛の糞の場所を通り過ぎると、もうそれも消えていた。

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<立派なヒゲの町の人Part2>







SEIJI


SEIJI YAMAUCHI プロフィール
1997年オーストラリアから旅を始め、半年間東南アジアを陸路で巡り、次は中国からロンドンまでのユーラシア大陸撮影旅行、陸航路横断を達成する。その後ケアンズに4年留まり、絵画展、写真展、オリジナルパフォーマンスアートを展開、2005年リビングインケアンズの表紙、インタビュー撮影を担当、カジノや公共でのダンスパフォーマンス、ミュージカルにも出演。2006年の2月からインド一周、パリ、中国を撮影し、日本に帰国後、写真集旅日記を出版する予定。2006年10月に浜松でオペラ歌手とピアニスト共演のコラボレーションパフォーマンスがすでに決定している。



これまでの連載

2006-01-25 第1回 ケアンズからインドへ

2006-02-04 第2回 インドへ 出発

2006-03-07 第3回 列車の旅

2006-03-21 第4回 太陽と埃と野良牛の国から

2006-04-04 第5回 アーマダバード・1

2006-04-18 第6回 アーマダバード・2

2006-04-26 第7回 水上宮殿に泊まる・1

2006-04-26 第8回 水上宮殿に泊まる・2

2006-05-29 第9回 マウントアブーの奇跡

2006-08-28 第10回 ブルーシティ(Blue City)

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