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第18回
デリー行き 4:00PM




50ルピーを払ってバスターミナルへリキシャーで到着したが、なんだか体が思うように動かない。未だ僕の周りの重力は強く作用されている気がした。
 
午後3時発デリー行きが満席だったので、午後4時のチケットを買う。
 

1時間をベンチで過ごすのは病み上がりのこの体ではとてもきつかった。時折物乞いや物売りがふらっと来たが、追い払う気力がなく、ぐったりしていると自然に彼らは立ち去っていく。なるほど、こんな方法もあったんだなとふと思った。
 

やっとこの長い1時間を乗り切ると、沢山の黒い煙を吐くバスが到着。窓のないエアコンバスだった。
 
一番最後の座席に座るとやがて出発。
 

しばらくすると気分が悪くなってきた。ミーガンは心配そうにこっちを時折見て僕の容態をチェックしている。
 
それでもバスはデリーへと進んでいく。
 
黒いフィルムが貼られたガラス窓が一層夕焼けを濃くしている頃、バスはあるサービスエリアに止まった。
  
外の空気を吸いに力のない動作でバスから降りる。そして座る所をとぼとぼと探した。
 
 
フードコートの毛の生えたような建物屋内にソファーをガラス越しに見つけたのでドアを開け、中に入るときつい食べ物の匂いが僕を襲う。一層気分が悪くなるのを避ける為、またドアを開け外に戻る。分厚い匂いの層に踏み込んでいく事すら出来なかった。
 

それから一応トイレに行っておこうと“あの臭いの巣窟”の中に入る事に決める。絶対に臭いので息を止め時折、口で息をするようにした。
 
 
よし、成功だ!
 
 
匂いを感じる事なく外に出た瞬間、絶対に届かないと思った場所で大きく息を吸い込む。
 
とたん、強烈なアンモニア臭が鼻をつんざき、ふいに肺が驚いた!
 
こみ上げる異物を感じ、思い切り庭の方に転がるように走った。
 
20年振りぐらいで吐いた。
 
不思議な事に小学校以来一度も吐いた事がなかったのでこの感覚を思い出すのに時間がかかった。
 
ミーガンが水を持って駆け寄り、ひどく心配していた。彼女は僕が吐く姿を見た事がなかったからだ。
 
「その体調じゃ無理でしょう?ホテルに泊まっていったほうがいいよ!」
 
そう言うや否や、ミーガンが隣りのホテルに走って行き、予約をしてきた。
 

僕は少し考えたが、
  
「ありがとう、でもこのままここには残りたくないよ。」
 
しばらく動く事を止め、そこから力を貯めて起き上がった。
  
予約したそこのホテルをキャンセルし、そしてバスの発車ギリギリで滑るように乗り込んだ。
 
 
その後、吐いた分気持ち悪さは消えたが、体のふらつき感は残っていた。
 

 
夕闇が漆黒に変わりやがてデリーのバスターミナルに到着する。渋滞の為1時間到着が遅れた。
  
都会に着いた証拠だ。
 





リキシャーの交渉は僕がいつも担当していたので1人の男を捕まえる。
 
「Central Court Hotel へ」 ひどく痩せた最初のこの男に30ルピーで行くように告げた。
 
この30ルピーとはこの滞在予定のホテルのオーナーに予約した時に聞いた値段、いわば正規料金だ。
 
OKと言うが彼は動かない。何かに縛られているよに動けなかった。
  
周りのリキシャー達がなにやらプレッシャーをかけている。
 
やがて別の男が来て僕の荷物を持って行き、自分のリキシャーに乗せる。念のため値段を聞くと70ルピーと言う。
 
あきれて強く荷物も引き出すと「50ルピーでどうだ?」と言ってきた。
 
そしてこの男、なにやらヒンドゥー語で周りのリキシャー仲間にいきさつを話すとドッとウけた。
 
そのうちその仲間の一人の男が40ルピーと言ってきたが、まだ高い。
 
僕もからかわれていたのが分かったので意地になった。
 
そこからしばらく言い合いしている内に体力が消耗し、精神的にうんざりしてきた。
  
もういい、この「40ルピー男」に決め、行き先を確認した。
 
「知っている」という。
 
別のコミッションがもらえるホテルに連れていかれるという手もあるので念の為、突き詰めて問いただす。

遂に「分からない」と吐いた!
  
周りのリキシャーがにやにやしながらこっちの様子を眺めている。
 
もういい加減にしてほしい。
 
 
分からないなら分からないと言え!!
 

その中で分かると告げてきた男、はじめに30ルピーで捕まえた男だったが、その男のリキシャーに荷物も載せた。
 
値段は40ルピーになった。体調が悪かったのでもういいと思って乗り込む。
 
 
もうインドがいやになってきた。

 
リキシャーが埃まじりの道に溶け込む。
 
怒りまじりの脱力感でぐったりしていると、しばらくして他のホテルを勧めだしてきた。
 
ミーガンがピシャリとその誘いを跳ね除けてくれた。
 
今の状態の僕にはすごくありがたいことだった。
 

 
無事辿り着いた「Central Court Hotel」は古いが休めそうだ。
  
スタッフも親切だった。
 

ホットシャワーが出ないのでチップを払ってバケツで温水を持ってきてもらう事にした。
 
今夜のリキシャーの事で嘘をつかれる事に嫌気がさしたから、この旅を続けるのに疑問を感じると話し合った。
 
もう夜中の1時をまわっていた。
 
 
初めてインドが嫌になった日だった。


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SEIJI YAMAUCHI プロフィール
1997年オーストラリアから旅を始め、半年間東南アジアを陸路で巡り、次は中国からロンドンまでのユーラシア大陸撮影旅行、陸航路横断を達成する。その後ケアンズに4年留まり、絵画展、写真展、オリジナルパフォーマンスアートを展開、2005年リビングインケアンズの表紙、インタビュー撮影を担当、カジノや公共でのダンスパフォーマンス、ミュージカルにも出演。2006年の2月からインド一周、パリ、中国を撮影し、日本に帰国後、写真集旅日記を出版する予定。2006年10月に浜松でオペラ歌手とピアニスト共演のコラボレーションパフォーマンスがすでに決定している。

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これまでの連載

2006-01-25 第1回 ケアンズからインドへ

2006-02-04 第2回 インドへ 出発

2006-03-07 第3回 列車の旅

2006-03-21 第4回 太陽と埃と野良牛の国から

2006-04-04 第5回 アーマダバード・1

2006-04-18 第6回 アーマダバード・2

2006-04-26 第7回 水上宮殿に泊まる・1

2006-04-26 第8回 水上宮殿に泊まる・2

2006-05-29 第9回 マウントアブーの奇跡

2006-08-28 第10回 ブルーシティ(Blue City)

2006-11-06 第11回 街の太陽 ジャイサルメール

2007-02-26 第12回  ビカネーの砂埃

2007-05-24 第13回  聖なる湖プシュカルへ 前編

2007-07-12 第14回  聖なる湖プシュカルへ 後編

2007-11-12 第15回  金絡みの領域 ジャイプル (前編) 
2008-03-12 第16回  金絡みの領域 ジャイプル (後編) 
  2008-08-12 第17回  眠れぬ夜 

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