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エッセー

2001年3-4月号・其の44 侠気

2007年09月05日

「見るのと聞くのは、大違い。いや、何とも気さくで、いい人でしたよ」

その夜、道場の稽古に来たギャリーが、私の顔を見るのを待ちかねたように、そう言う。目から鱗が落ちたような顔だ。さて、偏屈者の彼を心服させた女性…とは。

ワンネイション党々首のポーリンハンソンが、最初にケインズを訪問したのは、もう5年程も前になる。その時、彼女の護衛を担当したのが、武器携帯現金輸 送警備のアーマガード。マネジャーのピーターは、私の古い弟子。その関係で、彼の下で働いている連中も、私の道場の支部、と言える程、道場のメンバーが多 い。直接の護衛に選ばれたのが、ギャリーとクリス。ともに空手は二段の腕前。

ハンソン党首は、評判が悪かった。普通の民間人から立ち上がった彼女の事、言動の端々に、政治家らしからぬ過激な表現も多々ある。猫の目のような鋭い目 付きと重なって、マスコミへの当たりも手厳しく、それが独特のプライドを持つ彼等には、カチン、と来るのだろう。こぞって彼女の悪評を書き立てたし、それ が又、一般には彼女のイメージとして定着したように思う。

しかしナァ、ノラリクラリとしながらも、決してマスコミを敵に回さない政治家の多い中で、自分の言いたい事を喚いて嫌われているハンソン党首の方が、無知、非常識と非難されながらも、人間的には正直なのかも知れネェナー、と思ったりもする。

アーマガードのピーターが、私の道場に入門したのが、26年前。ガチャガチャとした男で、その上結構糞生意気。言いたい事を言う。私も道場を開いたとこ ろだし、その頃は血の気も多かった。豪州人なんかに負けてたまるか、と突っ張っていたものだから、この野郎、とピーターを怒鳴りつけるのが、習慣のように なっていた。ところがピーター、怒ってもひっぱたいても、相変わらず稽古にやってきて、懲りずにへらず口をたたく。

「今日は、いっテェなんでセンセイ怒ってくるかナァ、とビクビクしながら道場に行ってましたぜ」

そうとはまったく見えなかったけれど、今でも一緒にビールを飲むと、必ず当時の話になる。コラァ、ピーター!!と怒鳴りながらも、私自身の気持ちの中に、彼に対する奇妙な信頼感が湧いてくるのを、感じてもいた。

言いたい事は言うが、言うなりの行動力がある。荒削りでずぼらな面もあるけれど、真面目に物事を見詰める心も持ち合わせている。何よりも、人間的に信頼 出来る、という事で、Aussieは、He has his heart in right place.と、端的に表現する。私はこの言葉が好きだ。表面だけをうまく取り繕い、人間関係を自己の利益の為に、うまく利用しながら生きている日本人社 会とは、まったく正反対のキャラクター。以前はこんな本真物の豪州人〜Fair Dinkum Aussie〜が沢山いた。

1ヶ月前、西豪州の選挙が終わった。労働党の圧倒的勝利。GSTが原因である。クイーンズランドの結果も見えていた。これから連邦総選挙の結果も予測出来る。

20年程前、久々に労働党が政権を取って、以来15年。この間、国債は著しく増大、世界有数の借金国になる。おまけに社会保障の乱費で、働かない人間像 が増加。コリャヤバイ、と民衆の目がホンの少し目覚めて、リベラルに戻ったのが数年前。以来国債は大きく減少したそうだが、残る借金を片付け、膨大な社会 保障金をカバーしながら、国の財政を正常な基盤に戻すには、GSTしかない、として、よく踏み切ったものと思う。

確かに10%の出費は大きく、3ヶ月ごとのレポートは大変だ。しかし、その内慣れる。3ヶ月ごとに、正確に自分のビヂネスのポジションを知るのは、悪い 事ではない。それよりも、GST改革の結果が出るのは1年先、いや2年先かも知れない。次の総選挙で労働党が天下を取っても、GSTがなくなる訳ではな い。目先の損得で動くのは、豪州人も日本人も変わらないけれど、ここは一つ武士の情け。ハワード首相にGSTの結果を出させてやりたい、と私は思う。

「センセイ、又立ったぜヨ」
特徴のあるしわがれ声はピーターである。州選挙にワンネイション党が立候補したと言う。前回は惨敗だった。それでも、又出馬した。アーマガードでハンソン党首の警護をして以来、彼は彼女のノースの基点として頑張っていたようだ。

「負けると分かっている喧嘩でも、自分のスジを通さねばならネェ時は、買って出るのが生き方、というものでござんスヨ。それを誰かが続けネェと、世間という目は覚めませんぜ。おまけに豪州人の大半は、あまり頭がよくネェときてますしネ」

ピーターは、まるで日本の古い義理人情の世界に生きるやくざ者のようなセリフを、サラリと吐いた。この野郎、まったく変わらネェナ、と私は楽しくなった。この男を支えているものは、彼一流の侠気、なのだと思った。

私はワンネイション党のポリシーがどんなものなのか、よく知らない。たまたま見ていたテレビに、ハンソン党首のインタビューが出ていた。彼女の鋭かった 目付きも、スッカリ穏やかになり、質問の受け答えもそつがなかった。あれだけの悪評の中を切り抜いてきた彼女である。成長した、と言うべきだろう。

党のポリシーは、他の政党のように大きなものではなかったが、豪州人として当然、と思われるもので、好感が持てた。

ピーターは、やはり、落ちた。しかし惨敗の前回選挙に比較し、獲得票は大きく前進。特にアセタン、チャーターズタワー等のカントリータウンは、大半以上がワンネイション党支持に変わっていた事実は、これからの選挙に、何かを示唆しているようだった。

次の選挙にも、ピーターは、彼の、侠気、を引っさげて、又登場するだろう。ピーター、50才。

「オイ、又ビールを飲もうぜ」

私はそう言って電話を切った。心の中に、爽やかな風が吹いた思いがした。
 

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