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エッセー

2001年7-8月号・其の46 ワニも捨てたもンじゃない

2007年09月05日

突然、水面が音を立てて盛り上がった、と思えたそうだ。暗い水面が、夜目にも白く泡立ち、渦を巻くように激しく動いたら、すぐ横に座り、ついその瞬間まで話していた女が、消えていた。一瞬、何が起こったのか、残された男には、分からなかった、という。

ケインズから北へ車で2時間。デイントリーリバー・ナショナルパークの内懐にあるような小さな村、デイントリー。村落の少し手前。幅5メートル程の小さ なクリーク沿いに、古びた家が四、五軒、チマチマッと肩を寄せ合うように立っている場所がある。惨劇は、そこで起こった。ソーサナー、もう16、7年も前 になッか。

その夜、一軒の家でパーティーがあった。何のパーティーであったのか、は知らぬ。家の背後は、2メートル位の土手になっていて、簡単な木製の階段を数 段、トントンと下りると、小さなボートを舫う、ジェティとは名ばかりの、狭い桟橋が設置されていた。クリークの延長はそのまま、メインのデイントリーリ バーに、支流のようにつながっている。

12時過ぎ。一組の男女が、フラフラと裏庭に出てきた。かなり出来上がっている。酔い覚ましのつもり、だったのだろうか。ジェティへの階段を音を立てて下りると、狭いプラットフォームの上に座り込んだ。

動物は、この時から、獲物を感覚で捕らえていたに違いない。長い尾部が、ユックリと左右に動き、闇に開く無表情な目は、極く小さな波切りを起こし始める。

女はプラットフォームの端に座り、足をジェティから投げ出した。あいにく、水位はかなり高かった。女の足は、丁度脹ら脛位まで、暗い水中で動いていた。

ワニが獲物をアタックする時、一定距離まで目だけ出して、用心深く近付き、射程距離に入ると、一気に潜って勝負に出る。私も狙われた経験がある。獲物が大きいと、喰らい付くと同時に体を回転させ、噛み切る効果を増大させる。このアタックは、恐い。

動物の目がフッ、と水面から消えた。音もなく、まったく何の兆候も獲物に知らせず、動物は、鼻のすぐ先に、動く女の足を見た。

このアタックと前後して、もう一件ある。どちらが先だったのか、もう忘れた。

ある朝、二人の男がボートランプからスピードボートを下ろし、フィッシングに出る。白人と黒人。エスキーの中は一杯のビール。日が暮れてから、帰ってき た。一日中飲んで、ベロベロ。何とかボートをランプに上げたものの、心地よい傾斜のあるランプで、横になって酔い覚まし。そのまま寝入ってしまう。

ポートダグラス。デイントリーとケインズとの丁度中間点。今でこそ観光地だが、当時は小さな漁村だった。

黒人が目を覚ますと、白人が消えていた。家にも戻っていなかった。どこにも男の痕跡がない。モ、シ、ヤ、という事になり、ランプの入江沿いを翌朝捜索したところ、80メートル程上流で、太股から切断された男の足が見つかった。

私しゃ物好きで、その後現場を見に行った。一目見て、コリャ駄目ダ、と思った。どのアタックも、自然を甘く見た人間の責任。死んだ者には悪いけれど、同情の余地はない。

グレイムが来ていない。週2回の朝稽古。何かがないと、まず稽古を休まない彼の事。共に稽古に来ている父親のロンに、聞いてみた。ロン、67才。体が動 かなくなったら、俺の人生は終わりだ、とその年で頑張っている一微者。聞くと、グレイムはローラまで、バラマンディ釣りに出たと言う。エッ、ローラでバラ がつれるのカイ、と思ったが、考えてみるとその通りだ。

ローラはケインズから、4WDで約5時間。アボリジニーの聖地。プリンセスチャーロット湾に口を開くノーマンビイ川が、2百キロほどさかのぼり、支流共 々、ローラの近くを流れている。完全な淡水域なのに、バラはそこまで棲息しているのか。ヨシ、俺も様子を聞いて、行って見よう。ローラには宿泊設備はな い。野宿だ。あそこは、星が美しい。いいナー、と思った。

ローラは、寒かったそうだ。つい、2週間前。バラは寒いと食いが悪くてネー、と言い訳をした。彼は以前、ナショナルパークのレインジャーを勤めており、ローラ近辺は彼の庭の一部のように、熟知していると言う。アボリジニーとのコンタクトも強い。

「知り合いのアボちゃんが、9尾も釣ってくれましたヨ。でもネー」

ヒッヒッと笑っていた顔を、急に真顔にすると、「イヤ、久し振りに行くと、ワニッコの何と増えている事。びっくりこきましたゾネ」

豪州のワニが捕獲禁止になったのが、約30年も前。増えて当然、まだまだ増える。

「ローラに行ったら、まず水辺からは絶対に釣らない事。土手を捜す事。アルコールは、飲み過ぎないよう。酔うと大胆になり、水辺に近づきます。野宿は水辺より必ず2〜30メートル離れましょう。残飯は川に捨てないよう。ワニを呼びます」

「オス」私は彼の生徒のように、返事をした。まったくその通りの常識ばかりだ。そう〜豪州で自然に親しむ第一歩は、人間としての常識を守る事からスタート する。危険なワニの増加が、人間に自然と接する為の常識を考えさせる一助ともなるとしたら、それはそれで良い事だと思う。それまでは、北部クイーンズラン ド、何処に行っても、底の見えない濁った水辺に立つ事は…要注意!!

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