日本から自由にお買い物!


ケアンズの注目キーワード

売ります・買いますなどケアンズの掲示板

エッセー

2003年5-6月号・其の56 Wouldn’t be dead for the quids

2007年09月05日

あまりいい言葉ではないので、女性の前ではまず使用しない事。
その言葉を初めて聞いたのは、ケインズで空手道場を開いた頃だから、もう昔の事だ。それまでは日豪合弁の南洋真珠養殖会社の技師として、豪州最北端の小 島、木曜島に住んだ。会社のスタッフは、労働力としてのアイランダー以外は全部日本人で、毎日日本語で通せるものだから、9年半も働きながら、仕事に必要 以外の英語はあまり上達しなかった。

その男、実にうまい説明をした。
「牛には雌牛(cow)と雄牛(bull)がいますネ。雌牛が糞(スラングでshit)をすると、そのままペチャッと地面に落ちるのに、雄牛がすると何と、地面に落ちず、上へ上へと上がってゆくんですナァ」
真面目に聞いていた私、思わず
「ソンナ事あるモンか」
「ソー、ソレソレ、それがBullshit ですヨ」

馬鹿げた矛盾とか嘘っパチ、質の悪い冗談等をさす。豪州人の男達がごく普通に使っているスラングだ。ちなみに、こんな事をしょっちゅう言っている奴を、Bullshit Artistと言う。
日本人の英語はまず、キングイングリッシュ。正しい文法で正確にしゃべろうと努力し、英語学校等もその方針を基本とする。言葉はその国の大切な文化。他国の文化を教えるのなら、それを正確に指導する事が、教える側の良心としても当然の事だろう。

私が学生の頃の日本の英語学習は、読んで書くテスト用のみで、中、高、大学と十年近くも英語の授業に出て、まったくしゃべれなかった。言葉は人間のコ ミュニケーション。この一番大切な根本が日本の授業にはなく、従って耳から聞くという訓練がなかったからだ。
日本人は確かに正しい英語を学習するけれど、言葉というものはその上に、その国の生活風土から時間をかけて生まれてきたスラングや独特の表現法も数多く 使用されているものだ。これらは辞書にもなく、豪州人の中に入り込んで会話の端々から聞き取るしか方法がない。

日本語もそうだけれど、こんな言葉の中に、実に生活に密着したよい言葉があり、これが英語、という生きた言葉なンだと思ったりする。英語圏に住んでいる のだから、こんな言葉がサラリと出るような英語をしゃべりたいものだ。沢山あり過ぎて紹介出来ないけれど、例えば、メッチャ寒い天気やナ "What a brass monkey weather" と言う。昔の丸い砲弾を積み重ねるには、三角形のbrass(しんちゅう)の枠が使用された。これをmonkeyと言った。豪州南部の寒い朝は、砲弾が brassの枠に凍りつく事もあったから、この言葉が生まれた。

豪州人の誰もが各々の仕事に精を出し、豪州がまだ上向きに発展していた頃の挨拶のひとつ。
"Howya going, mate ?" (How are you?) "Wouldn’t be dead for the quids, mate" 金の為には死なネェよ、という直訳から、オラァやりたい事をやって、元気に生きてるゼ、という前向きの姿勢が目に見えるようだ。

余談だが、35年前の豪州の生活水準、世界第3位。日本なんかより遙か上で、豪1ドルは450円の時代。
私の好きな言葉の一つ。"Let’s put the nosebag on." 朝早くから働いて昼食時になった。馬にも餌をやらねばならぬ。袋の中に餌を入れ、馬の鼻づらに被せるようにして首に掛ける。これをnosebagと言う。
Nosebagを被せると人間も昼食だ。ヤレ、昼メシにしようゼ、という人間の合い言葉になった。

私がケインズに住み着いた頃には、こんな言葉を話す連中とよく出会った。ケインズが発展し始め、豪州各地から人が集まった。それを嫌ったローカルがこの 町を出、人間の交代劇が行われて以来、こんないかにも生活の臭いが漂ってくるような言葉は徐々に聞かれなくなった。寂しい事だ。
今でもハッキリしない言葉がある。二日酔い(hang over)の迎え酒(hair of the dog)。何で犬の毛が迎え酒になるのか、その語源を話してくれる豪州人に未だ出会わない。

 
   
 

▲左が一貴(かずき)さん

   

 一貴(カズと呼ぶ)がケインズに来た。彼は私の大切な友人、兄弟分でもある大阪の空手師範の息子。師範は会派の中でも重鎮的な人物である。
滞在1年。目的は例に漏れず、英語の勉強。英語学校に入学させるのは簡単だけど、費用の点と日本人同士が寄り集まって、ミイラ取りがミイラになる事もあるかも知れない、と考えた。
空手に大切なのがスピードを見切る目と勘であるように、語学に大切なのは発音を聞き分ける耳。一年の猶予がある。カズは私の門弟の家にホームステイさ せ、道場では毎日稽古。且つジュニアクラスを手伝わせ、とにかく英語の発音に耳を慣らさせながら自分から話しかける、という習慣を最初の3ヶ月の間に付け させるようにした。

日本人は引っ込み思案な性格が多い割には、チョット格好をつけ、他人の目を気にしてしまう。ある程度正しい文章を覚え、文法的にも正確にしゃべらないと 恥ずかしいと思うし、相手にも悪い、とさえ考えてしまう。まずほとんどの豪州人が日本語をしゃべれないように、日本人が英語をしゃべれないのは当たり前の 事だ。大半の日本人が英語の単語だけでもしゃべれる、という事実だけでも豪州人のレベルより上だ。文法的に無茶苦茶でも、気にする事はない。とにかく単語 を並べてでも、カズの意志を表現させる事が大切だと考えた。

カズが来て、もう4ヶ月が過ぎた。まったく英語の出来なかったカズの耳が、メッキリ良くなってきた。空手で言えば、突きが見えてきた。次は受ける事を教 えなくてはならない。次の3ヶ月は、カズが特に必要だ、と感じる分野の言い回しを勉強させる。簡単なスラングは、私が教える事にした。この調子で9ヶ月。 残りの3ヶ月は、好きなように遊ばせよう。その前に必ず中弛みが来る。マァ、その時はその時だ。

つい数日前、大阪でカズの父親、千政館道場師範と会った。朝の4時まで飲んだ。師範も間もなくケインズに来るそうだ。2人で又一杯飲めるのを楽しみにしている。
師範夫妻と支部長の山南君が、関西空港まで見送ってくれた。日本はゴールデンウィークの入口というのに、空港には人がいなかった。今まで日本でこんな空港を見た事がない。
イラク戦争、SARS、北朝鮮問題。世界が狭くなった現代では、一国のトラブルは世界のトラブル。ケインズの観光産業も、どうやら褌を締め直す時期に来ているようだ。

関連記事

このコメント欄の RSS フィード コメントはまだありません »

コメントはまだありません。

コメントをどうぞ

トラックバックURI:

http://www.livingincairns.com.au/%e3%82%a8%e3%83%83%e3%82%bb%e3%83%bc/2003%e5%b9%b45-6%e6%9c%88%e5%8f%b7%e3%83%bb%e5%85%b6%e3%81%ae56%e3%80%80wouldnt-be-dead-for-the-quids/trackback/

新着エントリー

新着コメント

RSSフィード

このブログのRSS
この記事/コメントのRSS